立つ

パルクールを習い始めて3、4ヶ月。いろんな技を習ったし、動画でいろいろ見た。


バク転したり壁を跳んだり、いろいろ派手な動きが目に留まる。

だけどそれだけじゃない。


塀とか手すりとか、そういう細い足場にバランス良く「立つ」

地味だけど、とても重要な技術であるらしい。


手すりから手すりへジャンプして、バランス良く着地する。海外の動画なんか観てると、みんな結構な距離、あるいは結構な高さから、塀やブロック、手すりにきれいに着地している。

そもそも「立つ」が出来ないと、成り立たない。すべての基礎と言ってもいいかもしれない。


教室で最初に習ったのが確かこのバランスだったと思う。


500mlのペットボトルくらいの高さの練習用の手すりに、横に立ったり、縦に立ったりを練習する。太さは10cmも無いくらい?縦に立つ時は、端から端まで歩く練習。

これが、できない!

まあみんなそりゃできないよねー、なんて思っていると、他の練習生の人が結構できてたりする。

レッスン内容は毎回変わるので、バランスじゃない日はホッとしたりなんかして

でも何週間ぶりかでまたバランスをやって、そりゃいきなりできるようになってるハズもなく。正直、苦手意識が芽生えてちょっとパルクール嫌かもって思った。


だがここで負けちゃいらんねえ 


近所の公園のブランコ、あれを囲む柵が、ちょうど練習の手すりと同じような太さなので、暇を見つけて自主練することにした。高さは自分の太ももくらいで結構落ちたら怖いんだけど、、、!

やってみるもので、ブランコの周りを一周、たまに落ちずに歩けるようになった。柵自体が途切れ途切れなので、途中落ちることになるのだけれど。

手すりに縦に立つのは、いちおうできるようになったことにしよう。

、、、が。


手すりに横に立つのが、もうまったくできない。

出来るかも、って手ごたえがまるで無い。

手すりが高いので、落ちて上っての繰り返しで疲れてしまう。

横に生えてる木の根っこが、結構いい太さだし落ちてもすぐ地面なので危なくもない。よし、これで練習だと乗ってはみるが、できない。夏から秋にかけては蚊に刺されて嫌になって帰る、雨の日は当然休み、そんなことを繰り返したが一向にできない。


ちょっとパルクールほんとに嫌になりそうだった。でも年齢を理由に諦めたりはしない、なんか、意地で。まだ35だし。


先生のツイッターを見てたら、基礎の練習を地道にやってる動画をアップしていた。

それこそ、低いブロックから低いブロックへ、正確にジャンプして、きれいに着地する。それを繰り返す。街中とか公園で。


、、そうじゃん、焦らないで繰り返しやればいいんじゃん


他の先生の動画を見たら、家の中で下駄箱から柱に飛び移っていた。


あ、家の中でやればいいのか!


そうやってアンテナを張っていると、毎日過ごしてる家も練習スポットに見えてくる。

お風呂のへりが結構細くて、水が溜まらないように微妙に坂になっているのを発見。

試しに立ってみると、立てない。

因みに立つ時の足の部分は、指の付け根の関節のところ。フォアフットとか上足底とか言われる。


うちのお風呂は狭いので、ちょっとバランスを崩しても、すぐ壁に手をつける。

何日かやって、だんだんと立てる時間が10秒から調子の良いときは30秒と伸びていく。



教室ではバク転専門の授業もあって、10月くらいからそれも並行して習っていた。

倒立が基礎であるらしく、それをやるのだができない。肩周りが硬く、腕がまっすぐ上に伸びていないらしい。


毎日30秒、壁に腹を向けて倒立の練習をしている。

ある時鏡を見て、姿勢が変わっているのに気づいた。

長年、仕事で一日中机に向かって、肩が内巻きになっていたのだが、この何日かの倒立で、自然に胸を張って、肩がストンと落ちたような姿勢になっていた。ストレッチポールの効果もあったかもしれない。


「なんかいけるかも」

風呂場に入って、お風呂のへりに立ってみた。

久しぶりだったこともあって(サボってました)フラフラおぼつかなかったが、

それでも続けているとコツをなんだか掴めてきた!

お、30秒

あれっ、60秒?

うそ、、、100秒立ったおれ、、、


出来なかったことができるようになるのはやはり楽しい。新しい感覚を掴む楽しさ!

からだの「軸」とはこういうことか?と少しわかったような気分になったりして。

生まれて、立ち始めてから34、5年。毎日してきた「立つ」ということさえ、変わってしまったかもしれない。ほんとうの「立つ」に出会えたかもしれない、、、、

そんな大げさなことさえ頭をよぎった。


パルクールをやるって事は、こういう、感覚を磨くことの小さな一歩一歩の繰り返しなのかもしれない。

自分のやってる「動き」を詳しく知る。

つまり自分を知る。


毎日は、まだまだ面白くなる。

そう信じて、またお風呂のへりに立つ。